「人間は本当にウソが上手な動物。でも、ウソの奥の方には、本人も気がつかない真実が流れてるものよ。」

哀歌は流れる (新潮文庫)

哀歌は流れる (新潮文庫)

昔この人が新聞に書いていたコラムが好きだったので、名前をうっすら覚えていて図書館で見かけたので思わず借りてきた。
当時は高村薫さんのが終って残念がっていたら、同じように現象を鋭く見抜き硬派な文章を書くこの人が続いたので良かったと思ったらすぐ終っちゃったんだよな。
*1

15年前に刊行されたもの(後で気付いた)にしては冒頭のイヤリングの描写以外はそれほど古さを感じなかった。
6篇の短編集で、それぞれが独立したものというよりバトン形式によって前の話にキーとなり出てきた人物が次では主人公となって全く別の物語を紡いでいっている。
そして最後に最初の話の主人公に帰っていく。
流れて1周して帰っていく感じだけどストーリ自体は別物。
恋かもしれない淡いものから不倫と全てラブストーリー(一応)なのに、どこかミステリーっぽく感じるのは高樹のぶ子の文章が甘さや柔かさを感じさせないせいかもしれない。
かといってさらっとしているわけでも軽いわけでも無く、またエッセイの時の様に硬いわけでも無い。
全体的にストーリーがどこか謎やウソが絡んでいるせいかもしれない。
事実成就された恋愛が一つも無い。(心中によって完結された愛はあったけど)
それぞれの謎や問題が解けても、全て悲しくて切ない結果が提示されただけ。
あぁそれで本のタイトルの「哀歌は流れる」なんだと読み終わって気付いた。
そういや短編のタイトルのどれにもこれがつけられていなかったなと。
そして最後の「生命のしずく」
どこか希望をもたせた終り方だから「流れる」なのかなと思った。*2

*1:多分、朝鮮拉致問題の件だろうな…でもあれだけ国民がほぼ浮かれていた時に冷静にアレを書くとはすごいと思ったけどな…ヲレは。

*2:なんとなくなイメージなので深く考えない様に